オンライン舞台監督という仕事
はじめに
ウィズコロナになってだいぶ経ちます。
業務を委託されている美術館にももう2ヶ月ぐらい行ってません。
暇をしている毎日かというと、そうでもありません。4月のせいこうHOUSEの無観客配信をしたり、#MDLというオンラインフェスの技術お手伝いをさせもらったりなどしています。自分たちのユニットであるDrillBrosの配信もしたりしたなぁ。それ以外は、ずっと勉強と自炊をしてます。
そんな中、最近は「オンライン舞台監督」と勝手に名付けた新しい仕事をしています。
- はじめに
- 1:「オンライン舞台監督」とは
- 2:「第三者に見せる」
- 3:「何を」「どう見せるか」
- 4:「段取り」
- 5:舞台の仕組みを熟知する
- 6:出演者のケア
- 7:スタッフとの連携
- 8:稽古
- 9:安心感を与える
- 10:「オンライン舞台監督」を創造してくれた現場と人たち
- さいごに
※技術的なことは書き出すととても長くなるので、あまり書きません。すみません。
※あと、(また)長文になってしまってすみません。自分でも引いてます。
1:「オンライン舞台監督」とは
現在、ZOOMなどのグループビデオチャットを活用したイベントが増えてきています。オンライン飲み会のように、自分たちの中でお話しているだけなら特に問題ありませんが、その様子をイベント化し「第三者に見せる」となると、「何を」「どう見せるか」という課題が現れ、且つそれを見せるための「段取り」というものが出現します。その段取りをオンライン上で仕切る人が「オンライン舞台監督」です。
2:「第三者に見せる」
今は年度初めですから、たくさんの人たちが「説明会」や「プレゼンテーション」といった形式のものを何とかオンラインで実現して「今だから伝えないといけない情報」を相手に渡そうとしています。
その他にも、様々なアーティストやクリエイターが、リアルな現場に身を持ち出すことができない現状の中で、様々な想像力を用いて「今だからできる表現」というものを考えています。
オンライン舞台監督の仕事は、出演者・表現者と観客との間に立って、双方の負担を軽減し、情報や表現を適切に受け渡すことをサポートすることになります。(と思っています)
3:「何を」「どう見せるか」
「何を」
これは様々ですが、ツールがグループビデオチャットである以上は、「音」と「映像」に限られます。
- カメラの映像と音声
- 画面共有を用いた映像・写真・資料・音声
「どう見せるか」
今度はその「音」と「映像」をどう見せるか。それはつまり「何をクローズアップ(強調)して観客に見せるべきか」という「演出」が発生します。
オンライン飲み会というものであれば、ギャラリービューでみんな平等に並列に画面表示されていても問題ありません。しかし、「何かを強調する」場合にはそうはいきません。
たとえば、ある登壇者の人のプレゼンテーションや演説を聞かせたい場合、このときは他の出演者の人たちのサムネイル画像は必要ない…ということを考えていかないといけません。さらに、今話している人の名前が補足情報として表示されている方が親切かもしれない…そういった演出が必要となってきます。
4:「段取り」
どう見せるかを考えていくと、当然ながら「どういった順番で見せるか」という次の段階に進みます。見せる物の順番について、つまり「物を語る順序」については、コロナ前でも今でもほぼ同じです。
ところが、舞台の台本で言う「ト書き」という部分に関しては、今までのとおりには行きません。
たとえば、出演者の出番が終わったとき、通常であれば台本には「舞台から去る」と書いておけばいいですが、今は「舞台から去る」と書かれただけでは去ることがなかなかできないのです。(この点については別項でまた少し話します)
このような問題点も含めて段取りを考えていく必要があります。
5:舞台の仕組みを熟知する
ぼくは元々が舞台出身なので、舞台監督という職能を持った人たちがどれだけ現場で優秀かを知っています。劇場の仕組みや、舞台装置の立て方バラし方、照明音響の知識やきっかけ、演出の意図、作品を立ち上げていく段取り、脚本の内容、制作スタッフの苦労、役者の気持ちすべてを把握しています。本当にすごい人達です。
それには遠く及ばないものの、オンライン舞台監督にも同様のことが求められます。なので、自分としても、配信に関する基本的な知識、画面素材の制作ノウハウはもちろんのこと、出演者スタッフの心配事についても把握しておく必要があります。これは実践で身につけていくしかありません。
#MDLの技術担当をするにあたって、今までの経験とリサーチ結果をまとめた「MDL Lab. 巣ごもりライブ実験室」(現在非公開)。このスプレッドシートの様式は、グラフィックレコーダーの清水淳子さんの「【#StayHome な授業のためのツールやサービス図鑑】」にインスパイアを受けています。
余談ですが、10年前にUstreamが流行った頃、学生だった自分は学内のイベントなどの生配信をたくさんしていました。山口情報芸術センター[YCAM]の10周年記念祭では、YCAM DOMMUNEの店番もしていたし、自分たちの配信なども数多く行ってきました。そこでの経験が今は大きく生きています。
6:出演者のケア
リアルな現場を配信するのであれば、たくさんの業者さんがいらっしゃいます。しかし、今はウィズコロナの真っ只中。配信スキルがあっても今まで通りいくわけではありません。
台本に書かれていたら、「舞台から去る」ことができた役者(出演者)たちが、今はそれができない。出演者たちにもそれなりのスキルが求められます。
ところが、緊急事態宣言以降、たくさんの人達がグループビデオチャットを使うようになったので基本的な操作はしていただけるようになりました。(最初は自分も含めて本当に大変だった…)
出演者の人たちは、自分たちが伝えたいことをきちんと伝えることが仕事です。なので、最低限の操作と段取りだけをお願いして、あとはスタッフでフォローすべきと考えます。
「舞台を去る」という動作を「カメラをオフ」という動作に置き換えて説明でき、それを実現できるかどうかが重要になってくるわけです。
フォローについて、すこし具体的な話をします。
いくらスキルを持っていても、人間なのでカメラやマイクの切り忘れは発生します。何かしらの理由でグループビデオチャットから落ちてしまって、再ログインをしてくる人もいます。
ZOOMでは「ホスト」という権限を持ったユーザーは、他ユーザーのカメラ・マイクのオンオフや入室許可を出すことができます。オンライン舞台監督はその権限を持って、出演者のケアと現場の調整を行っていきます。
先日の「YCAM未来の山口の運動会オンライン」の現場(自宅)
7:スタッフとの連携
今まで自分がオンライン舞台監督を担当したイベントには、たくさんのスタッフの方たちに助けられました。
- スイッチャー
- 配信
- 音響・DJ
- 照明
- 制作進行
- SNS対応
- デザイナー
- 配信見守り
- 司会
- などなど…
オフライン(リアル)な現場では「インカム」といわれるトランシーバーのような「スタッフ間通話機器」を利用して、スタッフ間の連携を取ります。
オンラインでは、舞台となる「グループビデオチャット」とは別に、もう1系統グループチャットを用意して、スタッフ間で連携を取ります。オンライン舞台監督は、現場の様子と配信先の状況を見ながらスタッフに指示を出していきます。
8:稽古
これは、オフラインでもオンラインでも同じことです。特にスタッフは、いくつかの役目を兼任することが多いので本番は絶対にテンパります。様々なシチュエーションを考えて練習することをお勧めしています。
出演者の方たちにも練習をお願いしています。先日行われた大学の説明会では、本番30分前に集合していただき、段取りと操作方法のレクチャーを行いました。このときにファシリテーターを勤めていたのが、アーティストの山城大督さんでした。非常にスムーズで明瞭でわかりやすく素晴らしかったです。結果、大きなトラブルなく説明会を終えることができました。
9:安心感を与える
役者として舞台装置の裏で待機してる時に冷静に扉をあける準備をしていた舞台監督さんに「いってこい」と言われて心強い想いをしたり、現場のスケジュールが遅れても「いけるいける」といいながら頭の中でスケジュールを組み直してくれていたり、「舞台を掃除せい。舞台の神様に見放されるぞ」と言ってくれたり…。舞台監督はすべての段取りを組み立てて出演者ならびにスタッフの人たちに「安心感」を与え、最大のパフォーマンスを引き出してくれる人だと思っています。
自分はそもそも舞台監督を専門にやってないし、自分にその職能はないと思いますが、舞台監督っぽい「オンライン舞台監督」をやってる以上はできる限りそうであろうと思います。
10:「オンライン舞台監督」を創造してくれた現場と人たち
あたかも自分が作り上げた仕事のように書いてますが、もちろんそんなわけはありません。様々な現場があって、そこで一緒にお仕事をした人たちが創り上げてくれたポジションに運良く自分がハマっただけです。ということで、この記事を書くに至った貴重な現場を紹介させてください。
山口情報芸術センター[YCAM]「YCAMスポーツハッカソン2020」「第5回 未来の山口の運動会」
毎年、YCAMで行われる「スポーツハッカソン」と「未来の山口の運動会」。数年前から現場監督としてお仕事をさせていただいているのですが、今年はやむなく中止…としないのがYCAMのすごいところ。オンラインでスポーツ競技作って、オンラインで運動会するという発想の転換。テーマが「でも、みんなでやる!全種目が世界初実施の超・最先端の運動会!」泣ける。
YCAMと運動会協会のスタッフが1ヶ月も試行錯誤を重ねながら準備をしていました。開催の2週間前に自分もそこに加わって、ブレストする日々。
「miro」という仮想ホワイトボードサービスを利用するとのことで、ぼくはそのサービス上で会場を作ったりとか、本番の進行に合わせてその場に競技用のオブジェクトを作るとか、まさしくオンラインでしかできない仕事ができました。ここでみんなと共有した知見は今めちゃくちゃ役に立っています。みなさまありがとう…。さすがYCAMやで…。
そのうち、YCAMが記録映像を公開してくれると思いますが、ここでは実際のグラウンドのキャプチャと取り上げられたニュース記事の動画リンクを貼っておきます。
※追記:運動会に参加されていたDPZよざさんが記事をアップしていただいたので、そちらのリンクを追加させていただきます!
ことし5月に開催した「YCAMスポーツハッカソン2020」と「第5回 未来の山口の運動会」の記録映像を公開しました。 pic.twitter.com/6d8rWprIXN
— 山口情報芸術センター[YCAM] (@ycam_jp) 2020年9月14日
【ウルトラプロジェクト2020】オンライン説明会
「未来の運動会」とほぼ同じタイミングで、山城大督さんに声をかけていただいて、オンライン説明会の配信アドバイザーとして運営グループに入りました。まずは配信に関する知見を共有するところからスタート。スタッフの方たちが一生懸命準備してくれたおかげで大きなトラブルがなく終えることができました。本番当日のぼくは、舞台監督として自宅から全体の現場調整と配信チェックなどを行っていました。スタッフの皆様おつかれさまでした。そして山城さん、さすがの仕切りとコーディネート力。
※記事投稿後に運営スタッフさまから写真を提供いただきました。ありがとうございます!
せいこうHOUSE #8
通常はトークイベントとして開催されますが、今回はコロナの影響で無観客配信イベントになりました。「出演者だけではなくスタッフもリモートワークしながらイベント開催」を裏テーマに、600km離れた大阪のスタッフがリモートで東京の機材を操作してスイッチングしたり、360度での配信も同時で行うなどかなり破天荒な仕様に。
かつ、前売チケットを販売しての配信(協力:ZAIKO)を行い、配信でのマネタイズについても挑戦しました。
舞台監督をはじめ、配信チェックや映像オペ音響チェックなど多くの業務を一人でこなすことになり、「これは、今までとは違う舞台監督という役職が必要だぞ」と身にしみた現場となりました(大反省)。
DrillBros Open.mtg #20
グループビデオチャットでのコンテンツづくりが予想されたので、自分たちでも挑戦しておこうと、(8年前までは定期的に行っていた)オンラインミーティングを行いました。出演者は基本的にZOOMの使用のみ。あとは配信側だけですべてをコントロールしていました。実際の配信日までに何度もリハーサルを行ったので、現場の仕切りやスイッチングなど本番の段取りもスムーズに進みましたが、自分自身が出演者であるため、出演者としては頭が回っておらずダラダラと喋ってしまいました(大反省)。
実際に放送したYoutubeのリンクと、関係者に配布したPDFのリンクを貼っておきます。
さいごに
先日行われたウルトラファクトリーのオンライン説明会では、名だたるアーティストの先生たちが自分たちのプロジェクトを紹介されていました。
すべての先生方が「アフターコロナ以降のことを、ウィズコロナな状況下で考え想像し、そして生きていく」ということを新入生に伝えていたように思います。慣れないオンラインでの説明会だったにも関わらず、その状況に果敢に挑戦して、強いメッセージを伝えるアーティストの姿に胸が熱くなりました。
YCAMでの運動会には「でも、みんなでやる」というテーマがありました。「でも、やる」。厳しい状況にも関わらず、ポジティブな気持ちを与えてくれる「でも、」でした。
そういった現場で「それでも、自分たちは創造的に生きていける。生きてみせる。負けないぞ、人間なめんな!」という思いでオンライン舞台監督をやってきました。
アフターコロナが来たとき、この仕事はたぶん消えていく運命でしょうが、それ「でも」自分はまた何かをしていくと思います。
アフターコロナが来たら、居酒屋でみんなと打ち上げするんだ!
追伸:世界の医療従事者や、保健所のみなさま、食品店やスーパー小売業、運送業、インフラを整備してくれる人たち、あと、いろんな世界や考え方を見せてくれる全世界のアーティスト達とそれをサポートする関係者に心より感謝します!マジで!