「オンライン舞台監督」のその後/オンラインイベントの4形式
- はじめに
- 定義:オンライン舞台監督とは
- 時系列の整理(1)
- 事例
- 時系列の整理(2)
- 事例
- オンライン舞台監督の領域
- オンラインテクニカルディレクター
- まとめ
- 謝辞
- おまけ
はじめに
先日、墨田区文化振興財団さんから、「オンライン舞台監督についてお話してほしい」というありがたいご依頼を受けました。せっかくの機会なので、前回の記事をアップした2020年5月から11月現在に至るまでの活動やその周辺をまとめていこうと思います。(*1)
というのも実は、「オンライン舞台監督に求められていた大きな役割は、ひと区切りついたのではないか?」と感じており、ちょっと整理しておきたいなと思っていたからです。
以前、「オンライン舞台監督という仕事」という記事で、オンライン舞台監督という仕事がどういった内容で、どのような事例があったかを書きました。
あれから時間が経ったこともあるので、今回は、これまで行われてきた様々な配信の形式を4つにまとめつつ、「オンライン舞台監督」の領域と「オンライン舞台監督の次」について考えていきたいと思います。
定義:オンライン舞台監督とは
自分のツイートを確認していくと、どうやら4月21日に初めて「オンライン舞台監督という仕事をしている」と自覚をもったようです。
いま、オンライン舞台監督という業務が発生してきておりまして、すでに3件請け負っております。コロナ時代にやってきた。
— Yuya ITO (@itoyuya) 2020年4月21日
ここで、(自分なりの)オンライン舞台監督の定義を再確認しておきたいと思います。以前のブログとは少し変わっているかもしれません。
オンライン舞台監督とは、
「オンラインのみで開催されるイベントの全体進行を管理する人」である
とします。
時系列の整理(1)
「オンライン舞台監督に求められていた大きな役割はひと区切りついた」と書きましたが、では、オンライン舞台監督という言葉に強い意味があった時期はいつだったのかということを考えていきたいと思います。
ここで、コロナウィルスと社会がどのように変わってきたかを、NHK 新型ウィルス時系列ニュースから抜粋し、自分が気になった事項も加えて整理していきます。
- 1月16日 日本国内で初めての感染確認
- 2月3日 乗客の感染が確認されたクルーズ船 横浜港に入稿
- 2月27日 安倍首相 全国すべての小中高校に臨時休校要請の考え公表
- 2月29日 都内の主要美術館などが一斉休館へ※
- 3月22日 格闘技イベントがさいたまスーパーアリーナで開催※
- 3月24日 東京五輪・パラリンピック 1年程度の延期に
- 4月7日 7都道府県に緊急事態宣言(のち16日に全国へ拡大)
- 4月11日 感染者数1日あたり700名
- 5月21日 政府 緊急事態宣言 39県で解除(のち25日にすべて解除)
- 6月2日 初の「東京アラート」都民に警戒呼びかけ
- 6月19日 都道府県またぐ移動の自粛要請 全国で緩和
- 7月12日 プロ野球 有観客試合が再開※
- 7月22日 「GoToトラベル」キャンペーン前倒しで始まる
- 8月1日 入場制限規制緩和へ
- 11月3日 THE YELLOW MONKEYが東京ドームにて19000名の観客を入れて音楽ライブを開催※
(※がついた項目は、筆者が加えたもの)
この年表の中でまず注目したいのは、以下の期間です。
- 4月7日 7都道府県に緊急事態宣言(のち16日に全国へ拡大)
- 5月21日 政府 緊急事態宣言 39県で解除(のち25日にすべて解除)
これは、いわゆる「ステイホーム期間」です。ほぼすべての経済活動が止まり、皆が家に閉じこもり、町から人がいなくなったあの期間です。
人がいなくなった町の中で、さまざまなオーロラビジョンから小池百合子都知事の注意喚起のVTRだけが流れるというすごい光景が広がっていました(*2)。
さて、この「ステイホーム期間」は1ヶ月以上に及びました。この期間は、観客はもちろん、アーティストとスタッフも同じ空間にいることがNGだったため、今までのようにイベントを開催することは不可能でした。そこで、全員がオンラインにいて、オンラインでつながり、そしてオンラインのみでイベントが行われていくようになります。その営みから要求された仕事が「オンライン舞台監督」です。
事例
この期間、どのような形態のイベントが行われていたか。以下の図のように説明できます。
1:ステイホーム形式
アーティストもスタッフも観客も各々の自宅から、インターネット上のある場所に集まる形式です。
ポイントとなる催事リスト
ここでは、この形式で行われたイベント/作品を紹介していきます。自分は関わっていないけれど、参照しておきたいものについては以下の4つです。
- 「12人の優しい日本人」を読む会(*3)
- 劇団ノーミーツ「旗揚げ公演・門外不出モラトリアム」(*4)
- Travis Scott and Fortnite Present: Astronomical(*5)
- 東京03リモート単独公演「隔たってるね。」(*6)
次に、自分が関わったイベント/作品です。以前のブログで紹介したので説明は割愛します。
これより以下のものは、「ステイホーム期間」後のものになりますが、アーティストとスタッフはそれぞれ別の場所にいて、観客はYouTubeなどでの鑑賞になりますので、この形式に当てはまるイベントといえるでしょう。
DIY MUSIC on Desktop
DIYで作った楽器を自宅の机の上(まさしくデスクトップ!)で演奏し、それをYoutubeにて配信する音楽イベントです。これもZOOM上で行われ、パフォーマンスや映像発表のあとでは、MCのThe BreadBoad Bandのメンバーとのトークも行われました。
仮想劇場短編演劇祭とめコメ試写会
8月に開催された「仮想劇場短編演劇祭」という演劇祭の企画アドバイザーを務めました。そこで発表された作品のアーカイブ映像が販売されるにあたって、この演劇祭の趣旨説明と若手演出家による3作品を映像を止めながらコメントしてく試写会を行いました。わたしは東京、劇場のスタッフは大阪でした。こちらも同じ空間に集まることなく行われたイベントとなります。(*7)
(11月12日現在では、まだPart1までしか公開されていません。順次公開予定です!劇場スタッフのTさん頑張ってください!)
時系列の整理(2)
さて、ここで年表を改めて確認しておきます。
4月7日 7都道府県に緊急事態宣言(のち16日に全国へ拡大)
4月11日 感染者数1日あたり700名
5月21日 政府 緊急事態宣言 39県で解除(のち25日にすべて解除)
6月2日 初の「東京アラート」都民に警戒呼びかけ
6月19日 都道府県またぐ移動の自粛要請 全国で緩和
7月12日 プロ野球 有観客試合が再開
7月22日 「GoToトラベル」キャンペーン前倒しで始まる
8月1日 入場制限規制緩和へ
11月3日 THE YELLOW MONKEYが東京ドームにて19000名の観客を入れて音楽ライブを開催
5月21日に緊急事態宣言が解除になって、国が定めるところの「新しい生活様式」での日常が始まります。様々な催事において、会場への入場制限が設けられました。それ以外にも、手指消毒やマスク着用の徹底、座席の間隔、発声の禁止などなど。そういった厳しい条件下でも、劇場や美術館は開いて、人が少しずつ集まります。
7月にはプロ野球の有観客試合が開催されるようになり、コロナの第二波が夏にやってくるのをなんとか凌くなどして、11月には東京ドームでTHE YELLOW MONKEYのおよそ2万人規模の音楽ライブが開催される(*8)(*9)までになります。
事例
さて、ここからは「新しい生活様式」での日常がスタートしてからの事例を紹介していきます。「テレビ」を見てきた我々からすると、すでに見たこと体験したことのある形式ばかりです。
2:無観客形式
アーティストはスタッフを含めて同じ場所に集まりますが、鑑賞者は配信のみで作品(公演)を鑑賞する形式です。
ポイントとなる催事リスト
- AUTOBACS JeGT GRAND PRIX ROUND EXTRA @ONLINE(*10)
- 本多劇場グループPRESENTS「DISTANCE」(*11)
- KEYAKIZAKA46 Live Online,but with YOU!(*12)
- ELLEGARDEN 2020 YouTube生配信(*13)
- じゃんけんグリコ 2020 REMOTE(*14)
- DOMMUNE(*15)
ロームシアター京都「プレイ!シアター at HOME 2020」
ロームシアター京都で毎年行われていた夏休みイベント「プレイ!シアター」を今年はオンラインで行うことになりました。トークあり、コンサートあり、ダンスあり、音楽ライブあり、何でもあり!同時多発的に行われるイベントを複数の配信で行うというボリュームたっぷりのイベントとなりました。リンク先のタイムテーブルを見てほしい、どれだけ大変で楽しかったかを!笑
DAIFUKU presents DISCOVERY HACKATHON
渋谷のFabCafe Tokyoをメインスタジオにして行われたハッカソン!しかも、参加する学生約60名が全員オンライン!今まで行ってきたハッカソンイベントとは運営側も体験側も全く違ったものになりましたが、「また来年!」という言葉がスタッフから出てきたとき、これまで続けてきたイベントが、コロナのせいで途切れなくて本当によかったと思いました。
細井美裕「Vocalise」
アーティストの細井美裕さんによるライブパフォーマンスです。
アーティストは、「無響室」という音の響きを最大限無くした部屋の中でボイスパフォーマンスを行い、その声をZOOM経由で、神奈川にある小野測器の「残響室」にて出力し、その残響室内の音をYoutubeにて配信するという形式でした。結局、一度も細井さんに会わないままだったなー。細井さんが連載されてる「Sound&Recording」内でご自身がパフォーマンスの内容とシステムについて語られています(サンレコっぽく機材とか書かれていてめっちゃタメになります)のでそちらをお読みください。
篠田千明 新作オンライン・パフォーマンス公演『5×5×5本足の椅子』at YCAM
演劇作家の篠田千明さんによるオンライン・パフォーマンスです。配信パフォーマンスの形式では一番オーソドックスな「無観客方式」ではありますが、舞台はなんとラップトップのデスクトップ画面。アンナ・ハルプリンのダンススコアを軸に、様々な時空間を同時に、またはズラしながら見せることで展開するという、演劇作家ならではの配信パフォーマンスとなりました。観客は全てが終わった後、いったいいつどこで誰と「いつを」見ていたのか、奇妙な感覚を残していきました。(*16)
3. 公開放送形式 
公開放送とは、テレビ、ラジオ番組において観客を集めて生放送、録画、録音を行うこと。番組収録を行う場合には公開録画(テレビ)、公開録音(ラジオ)とも呼ばれ、放送業界ではそれを略して、俗に公録(こうろく)とも呼ばれる事もある。(Wikipediaより抜粋)
笑点を見たことがある人には馴染み深い形式です。コロナ前から音楽ライブや舞台公演でも配信は行われていました。ただし、2020年11月現在の状況と違っているのは
- 「客席の使用率が100%ではない」
- 「有料配信(*17)」が増加
- 「我々が配信を見ることに慣れた」
といった点が挙げられるでしょうか。
ポイントとなる催事リスト
多くの催事がこの形式で行われていますが、どうしても挙げておきたいのはこの2つです。
仮想劇場短編演劇祭
8月に開催された「仮想劇場短編演劇祭」という演劇祭の企画アドバイザーを務めました。「劇場にいる観客とオンラインにいる観客、それぞれに違った表現は可能か?」「(再びコロナのような疫病に地球が襲われるであろう)100年後の後輩たちに向けてリファレンスとなるような表現や実験ができるか?」をコンセプトに行われた演劇祭です。演劇祭の内容については、「仮想短編演劇祭とめコメ試写会 vol.1」という動画の中で説明しています。過去記事も併せてご覧いただけたら幸いです!
せいこうHOUSE vol.9
せいこうHOUSE vol.8では無観客形式で、360°配信、有料配信、オペレーターが大阪から遠隔操作という内容でしたが、vol.9ではお客さんが劇場(CBGKシブゲキ!!)に戻ってきてくれました!客席数は50%までの使用となり、ライブ配信も行う催事となりました。
せいこうHOUSEでは、開場中の時間に「観客着席判定システム」を使用したコンテンツがあるのですが、間引かれた客席をどう表現するかが課題でした。
そこで考えられたのが「間引かれた客席を挟むようにリアルのお客さんが着席したら、間引かれた客席に配信を見ているオンラインのお客さんが現れる」という表現方法でした。だから何なんだと言われたらそれまでなんですが笑、どうしてもオンラインのお客さんも近くにいるよってことを意識したかったのです。
山口県立美術館×YCAM オンライン+オフライン鑑賞イベント「見ないほうがよくみえる」
目隠しをしたひとと、作品を見るひとの2人1組のペアをつくり、作品を見るひとが作品を鑑賞しながら、目隠しをしたひとに作品のことを言葉で伝える「ブラインドトーク」というものがあります。(*19)それを、「オンライン」と「オンサイト」の参加者で行うという鑑賞ワークショップが、YCAM教育普及チームと山口県立美術館が連携して開かれました。
オンライン参加者は高解像度で撮影された作品画像を見ながらオンサイト(美術館)参加者に言葉で伝えていきます。その後、オンサイト参加者は美術館に展示されている本物を見るのですが、本物は作品保護のためショーケース内に展示されており、参加者は1m以上も離れて見ることになります。
「よく見えるけど画像」「よく見えないけど本物」…
ブラインドトークの鑑賞ワークショップでありながら、本物と複製物についての情報の肌理の違いをも体験できる非常にリッチなワークショップに仕上がりました。(*20)
4. ハイブリッド形式

会場に観客を入れてオンラインで配信も行う形式について、よく「ハイブリッド」と言いますが、本当の意味での「ハイブリッド」はこの図の形式ではないでしょうか。
つまり、観客もオンラインとオンサイトにあり、演者もオンラインとオンサイトにある状態、とにかく現時点で出来うる全ての選択肢を採用した形式となります。
この事例は、まだそんなに多くはないかと思います。なので、ここでは自分が関わった事例だけを紹介したいと思います。
APAF Exhibition 作品発表『フレ フレ Ostrich!! Hayupang Die-Bow-Ken!』+Happy Birthual Tamago Party
APAF(Asian Performing Arts Farm)のExhibition部門で発表された作品です。こちらの作品については、APAFからレポートが出ています。そちらの記事をお読みいただけると、どれだけ大変でいろいろなものを示唆した公演になったかが分かると思います。ぜひ、ご一読ください。
オンライン舞台監督の領域
コロナ禍の配信にまつわる催事の形式を
- 「ステイホーム形式」
- 「無観客形式」
- 「公開放送形式」
- 「ハイブリッド形式」
の4つにまとめてみました。これらを、オンサイトの現場があるかないかで分けて考えると以下のようになります。
これまでに紹介した催事を体験してきて、「オンライン舞台監督の領域は、ステイホーム形式のみとするべきなんじゃないか」と感じるようになりました。
なぜか。「現場」に舞台監督は2人もいらないからです。現場スタッフの混乱を生んでしまう(*21)ためです。そして、その肩書きの重さゆえに自分の仕事(舞台監督)への意識も混乱してしまう。
実際に「公開収録方式」の現場に挑んだ際、自分の中で静かに動揺と混乱が起こっていました。それを見事に見抜いた展示記録班の丸尾さんは、その様子を写真とコメントで残しています。
では、残りの3つの形式に対応可能なのはどういった役目なのか。そんなことをぼんやりモヤモヤと考えている時に、APAFスタッフの植松さんから提案してもらったのが「オンラインテクニカルディレクター」でした。
オンラインテクニカルディレクター
この立場では、今までのオンラインの営みと、オンサイトの現場を繋げることが仕事になります。
現在、オンサイトでやってきた一線級の人たちでも、現場にオンラインが入ってきたことで(まだ)混乱しています。(*22)実際、自分が参加した現場にいるアーティストやプロのスタッフさんたちは混乱しすぎて何度も天を仰いでいるのを何度も目にしました。「今度はリアルで会おうね」と言って催事を締めることは普通だし、「もうオンラインはコリゴリだ」と言われることも少なくありません。
この立場は、そんな人たちの不安を取り除いて、新しい営みや表現を創出してもらうための提案やサポートを行うことになります。
簡単に表にすると以下のとおりでしょうか。
オンライン舞台監督 | オンラインテクニカルディレクター | |
仕事内容 | 催事全体の進行。配信で利用できるウェブサービスなどの提案も | オンラインとオンサイトをつなげる。機材構成や演出方法も提案 |
領域 | 催事全体 | あくまで催事の一部分(オンライン) |
配信環境 | オンラインのみで完結するので関係者各自におまかせ(オンラインからサポートする) | オンサイト現場からの配信環境整備。オペレーターの手配を行うことも |
「オンライン舞台監督」という言葉と比べて「オンライテクニカルディレクター」は、ずいぶんと平易な言葉になって溶けて消えそうですが、これでいいんです。
これからもオンラインへの発信は続いていくでしょうから、この存在は溶けて馴染んで当たり前のような存在になっていくんだと思います。
まとめ
以上、前回のブログから現在に至るまでの配信形式の整理と、オンライン舞台監督とオンラインテクニカルディレクターの仕事についてまとめました。長い!
「この先、オンライン舞台監督の仕事ずっとあるよ」と沢山の人に言っていただきました。でも、自分は「そんなことないよ」と思っていたのですが、この意識のズレはどこから生まれていたんでしょうか。
「仕事はこれからもあるよ」と言ってくれる人は「オンライン舞台監督」と「オンラインテクニカルディレクター」を一緒くたに捉えていて、それに対して、ぼくは無意識ながら、その2つを分けて考えていたからなんだと整理してわかりました。
そして自分が「そんなことないよ」と思っていたのは、今回のブログ記事の最初に書いた「オンライン舞台監督に求められていた大きな役割はひと区切りついた」ことをどこかで実感していたからなんだと思います。
これから、オンライン舞台監督は、ステイホーム期間の「レスキュー隊」のような任務は終え、これからは「町医者」(*23)みたいになって、中〜大規模のイベントではオンライテクニカルディレクターとして出かけていんだろうなぁ。
未だコロナウイルスの感染は落ち着かないし、打ち上げをどう安全安心に行うべきかの問題は解決していません。あと、呑み会帰りの「家路につく」という行程の代替手段は何かと模索中です。
おわり
謝辞
自分にとって新しい仕事+自分の至らなさもあって、お仕事の声をかけてくれた皆さんに丁寧に自分の仕事の内容を説明できず、求められていた結果と違う仕事内容になっていたかもしれません。それにも関わらず、根気強くお付き合いしてくれ、そしていつも一緒に楽しい現場を作ってくれる皆様に本当に心から感謝します!
追伸:世界の医療従事者や、保健所のみなさま、食品店やスーパー小売業、運送業、インフラを整備してくれる人たち、あと、いろんな世界や考え方を見せてくれる全世界のアーティスト達とそれをサポートする関係者に心より感謝します!マジで!今回もマジで!
おまけ
本編に組み込めなかったけどどうしても書きたかったことたち。
今回含めなかった「パブリックビューイング」。パセラは現代の教会説?
今回は、あくまでコロナ禍における配信形式をまとめたものなので、いわゆる「パブリックビューイング」形式は含めていません。実際には非公式で行われている形式でもあるのですが…。
最近は、カラオケボックス(特にカラオケパセラ)でもインターネットが利用できるようになっているので、複数人が集まって配信を見ている事例が確認されます。これはコロナ感染予防の観点から、主催者側から薦めることはありませんので、各自自己責任で行われているものです。やっぱりみんなで一緒にみたいよね…。
@matsurixdd まいやん卒コン対ありでした!ドームで見たかったけど卒コンでみんなでコールできてよかったです!!#乃木坂46 #白石麻衣卒業コンサート #ガールズルール #白石麻衣
♬ オリジナル楽曲 - まつりまつり
これについて色々と考えた結果、偶像が複製(=配信)され、それを数名が崇拝し、賛美歌を歌う(=コールする)場所が各地にある(カラオケボックス)…ということで、「カラオケパセラはコロナ禍における教会である」という結論(暴論)が導かれたのです笑
豊かな鑑賞体験とは
今まで演劇やライブは「生の現場で体験するのが一番」と、半分盲目的に言われてきました。10年前に配信が流行ったときも「配信が増えることでライブの唯一性の価値が強化される」(アウラ(オーラ)的な話)と言われていましたし、ぼく自身もそう思っていました。
しかし、その価値が反転することがあったのです。
私がオンライテクニカルディレクターとして参加したAPAFのパフォーマンスは東京芸術劇場で行われました。東京芸術劇場は劇場公演に関するガイドラインを厳守していたため、客席の間隔は広く取られ、観客の手指消毒、マスク着用の徹底、会話や声を出す行為の禁止が徹底されました。
APAFのパフォーマンスは、観客が参加するパフォーマンスでした。ダンサーのAokidさんが、オンラインとオンサイト(劇場)両方の観客に声をかけ挨拶します。オンラインでは、皆がマイクをオンにして声をだして挨拶を返しますが、オンサイトではそれができません(せいぜい手を振るぐらい)。その後、オンラインの観客は物語の進行に合わせて絵を書いたりおやつを食べたりするなど自由に参加しました。
パフォーマンス後のアンケートでは「劇場で見ていて不自由だった」(*24)というような意見がネガティブな感情とともに散見されました。8月に行われた仮想短編演劇祭ですら、実際に劇場で見た人からの感想はもれなく「劇場で見られてよかった」というものだったので、APAFでのこの意見は衝撃でした。(*25)
これは、先日のTHE YELLOW MONKEYの横浜アリーナ公演でも発生しています。ニコニコ生放送での中継されたこのライブへのコメントには「現場、声が出せなくて辛そう」といったものがいくつかありました。ライブ会場にいる相手にそんなこと、今まで思ったことなかった…!
今回の件で「豊かな鑑賞体験」というものが因数分解できるような気がしています。「現場は生が最高」という価値観のベールが少しだけめくれてる今、じっくり「体験」について考えるチャンスが来ているのかもしれません。
*1:墨田区さんから受けたインタビューは後日公開される予定です。この記事は、そこで話しきれなかった部分を追加したものになります
*2:このときの東京の街の風景の異常性は、乃木坂46の「世界中の隣人よ」というMVで垣間見ることができます。個人的には非常に貴重な資料なんじゃないかと思います。
*3:この作品については「仮想短編演劇祭」のプレゼンの中でも言ってますが、あのタイミング(2020年5月)でこれが出てきたことはすごい!最初にして頂点をいきなり叩き出した演目。リモート演劇の源流。教科書に出ます。教科書に載せてください。
*4:話題となった「ZOOM演劇」。「12人の優しい日本人」の形式を継承し、オリジナルのSF作品に昇華。大学生がコロナで4年間もリモートだったという設定は、今でもリモート授業ばかりで厳しい大学生活を示唆していたかのよう。個人的には、出演していたHKT48の田島芽瑠さんが劇中にインスタのストーリーを更新したところが激アツだった。この空間越境はもっと考えていこうとおもう。
*5:Travisがフォートナイトの中でライブしてたっていうから、Youtubeで見たら完全に未来だった。ゲームの中だったら、アーティストがゴジラ並みにでかくてもいいし、観客も空を飛びながら見てもいいよね!間違いなく今より先の可能性を提示した。10年後までに絶対流行る。
*6:ご存知!東京03さんによるコント公演。コント公演の伏線のはり方もそのままに、画面共有やアナログ紙芝居的な仕掛け。同室内の複数のカメラ視点(角田さんのご家族の協力で実現)など、豊かな表現が散りばめられていてめっちゃ笑った。このころは芸人さんが本当にいろんなことに挑戦していてすごかった。芸人なめんな、お笑いなめんなってマジで思う。
*7:この演劇祭についてのブログ記事はこちら。 仮想劇場短編演劇祭に寄せて/寄り添って - Tentative
*8:このイエモンのライブは実はとんでもない意味があって、まずあれだけの大きい屋内会場に2万人弱のお客を入れ、「音楽ライブ」(ロックコンサート)を行ったということは、世界中を見てもかなり稀な例です。(Vo.の吉井さんもライブ中に「世界初かも」と言及)
2020年9月11日、内閣官房新型コロナウイルス感染症対策推進室からの事務連絡によって入場規制の緩和が始まりますが、「大声での歓声、声援等がないことを前提としうる場合」(おそらくクラシックコンサートやオペラ)と「そうでない場合」(いわゆる音楽ライブ)と区分けし、制限に差を設けました。後者にあたる「音楽ライブ」催事には未だ強い制限がかけられたままです。
それぞれ観客の営みが違うと(当たり前なんだけど)国もわかっているわけです。モッシュとかされたらかなわんと官僚は考えてたわけです(それはない)
ちなみに東京都による区分けはこのリンク先のとおりでした。わかりやすいかも。
新しい生活様式の日常がスタートしてから溜まってきたTipsを余すことなく駆使して開催されたライブは、関係者の意識とお客様の協力無しでなし得なかったライブ公演だったと思います。その知の集合がこちら。(もちろん各業種の皆様も必死に対策されています。この一覧を見よ!)
このドーム公演をひとつの試金石にしようとしていたのか、このライブの数日後、いくつかのアーティストがドーム公演を発表します。横目で見てたんだろうなぁ。
*9:そして、11月18日。公演から2週間が経過しても、来場者からコロナ感染者が出ることはありませんでした!すごい!
*10:初見はびっくりした。グラツーのグラフィックがヤバいことになってきてることは聞いていたけどここまで進化してたとは…。実写に近いゲーム映像と、各プレイヤーの家に設置したウェブカメラ(絶対カメラ位置は運営側から指示がいってるはず)のドライバー映像を使い、モータースポーツのテレビ中継の文法を完全になぞることに成功。これ、簡単そうに見えてめちゃくちゃリサーチしてないとできない。レイアウトとかまじそのまんま。見応え充分。
*11:劇場の街・下北沢もコロナ禍で劇場が軒並み閉鎖。そしてついに大本山である本多劇場から演劇作品が有料で配信された。e+の新サービスのローンチ公演でもあったはず。ここから有料公演がオーソドックスになっていた気がする。入江雅人さんの公演は鬼気迫るものがあった。小劇場なめんな、舞台役者なめんなってマジで思う(2回目)
*12:無観客でのライブ公演。客席を無くした広い空間を大きく移動しながらパフォーマンス、そしてカメラも縦横無尽に動く。従来のライブでは、会場にいる観客に配慮しながら客席やカメラ位置が決定されるが、無観客ではその制約がなくなる。故に、平面的な表現から立体的な表現と変化した。アリーナ級の会場を押さえることができ、且つ、歌って踊るパフォーマンスをするメジャーアーティスト/アイドルは当然のようにこの様式を取り入れることになる。アイドルなめんな事例。
*13:エルレがライブやるからって聞いたので見に行ったら、自然豊かな最高なロケーションでメンバーが演奏してた。自宅やライブ会場、スタジオではまだ「密」とされる状況だったので、屋外でライブをしたことにしたんだと思う。ZOOMの中に閉じ込められていたアーティストとスタッフがやっと再会した雰囲気もあってよかった。今までは恥ずかしくて言えない感謝とか飛び出したりしてた。
*14:商品プロモーションを広告代理店と制作会社がリモートでやるとこれだけの物量になるといういい例。ただリモートでじゃんけんするだけなんだけど笑。とかく、オンラインものは「手軽にできるんでしょ」と言われるんで、そういう人にはこの動画冒頭のセットアップしてるシーンを見せることにしてた
*15:クローズしてたパルコ内をアーティストが歩き回ってライブしてる回とか、ステイホーム期間中に行われた配信は全部、国会図書館が残すべき。
*16:仮想短編演劇祭でも言いましたが、ぼくは演劇作家による空間感覚の特性を信じています。今回の作品は、それを最大限に生かした作品だったと思います。実現できたのはYCAMのインターラボスタッフのサポートがあったからです。お手伝いできてよかったですー
*17:まだ、有料配信がメジャーでなかったころ、当時きゅうかくうしお(森山未來+辻本知彦)の制作をされていた故・岡村滝尾さんからご連絡いただいて「なんとか!できないものですか!」と言われて、色々とリサーチしてJストリーム様のご協力を受けながら有料配信したのが、2017年の《素晴らしい偶然をあつめて》公演でした。滝尾さんは早かった!最初に滝尾さんと打ち合わせした喫茶店もコロナの影響で閉店しまったし、公演場所だったvacantも無くなってしまった…。滝尾さんはたぶん天国でも早い仕事してる気がする。
有料配信もいまではいろんなプラットフォームが生まれ、やりやすくなりました。いまでこそ視聴者側も慣れてきましたが、当時はアカウント作成が求められたりするだけで抵抗感を持ったものです。そんな中、YouTubeの「スーパーチャット機能」(いわゆる投げ銭機能)は金額を100円から1円単位で決められることもあって、抵抗感なく利用されました。しかし当時は、これを使用した配信を行うには、配信チャンネルの登録者数が1000人以上であることなど厳しい条件がありました。そのため、色んな人たちが「とりあえずチャンネル登録してくれ!」と(SNS上で)叫んでいました。
*18:プレイタイムについては、語りたいことたっくさんあるんだけど!会場の使い方、お客さんの入れ方そしてタイミング、スタッフさんと劇場への愛など!コロナ禍における傑作。言い出したらキリない。仮想短編演劇祭の若手演出家の人たちに「チケ代奢るから見てほしい」とまで言った気がする。ちょっと記憶が曖昧になってきてるんで感想控えますが、ひとつだけお気に入りのシーンを言わせてほしい!森山未來さんと黒木華さんが照明のブリッジで話ししている時に、黒木さんが「手でもつないでみましょうか」というセリフをいうシーン!女性が男性を誘惑するセリフでもあるんですが、ご時世的には握手をするということがコロナウィルス感染防止の観点から禁忌とされているので、その意味が重なってくるので、このセリフを聞いたときの緊張感たるや!しびれたなー!
*19:ゲーム好きな人なら「完全爆弾解除マニュアル」みたいなものだといえばわかりやすかも。
*20:内容もさることながら、YCAMが年度初めからここに至るまでに培ってきたオンラインイベントの経験が隅々に活かされていてさすがでした。オンラインイベントで気をつけなくてはいけない点を全員が把握していて、アサインするスタッフも的確。この形式のイベントはうまくやらないと、オンライン/オンサイトのどちらかの参加者に取り残されている感覚をもたせてしまいます。それを防ぐために、両サイドにファシリテータとサポーターを配置し、常にケアしていく。担当者にも言いましたが、今回のワークショップはひとつの完成形を提示したと個人的には思っています。今後、オンラインイベントを考えるときはこのワークショップでの体制をベースに考えていきたいです
*21:監督と特技監督がケンカして現場が荒れることは平成ガメラ3のドキュメンタリーで庵野監督があぶり出していますね、あれに近いものです。(今見ても、スタッフのメンツがやばすぎる)
*22:こちらの記事で私が発言している通り、これからどんどん整理されていくでしょうから、これまでほど混沌とした状況ではなくなると思います。
*23:オンラインのみで実施できる手軽な「ステイホーム形式」のイベントは積極的に行われていくべきですからね。
*24:そもそも客席というのは不自由なんですけどね。たしかそんなようなことをブレヒト先生も行っていた気がする。
*25:個人的にはネガティブな感情よりも、こんなことが演劇に起こり得るんだという新しい発見と感動でした。観客の役割や立場を変えたりする実験は昔から行われてはきていたけど、それでも劇場という時空間が共有できる場所の優位性は揺るぎなかったのに!あれ、マジでポストドラマ演劇きてるじゃん、ちょっと今年は現代演劇にとって重大な課題がでまくりじゃないの?誰かまとめてよ!論文書いてよ!とか勝手に思っていますが、たぶんこの周辺事情は、大御所の人たちにとっては無関心もしくは嫌悪の対象になりそうなので若手の面白そうな人が語ればいいと思っています。レーマン先生の本を久しぶりに読もうかな。